映画レビュー:桜田門外ノ変 ~純然たる史実時代劇の最高峰~

どうもこんにちは。
今回は、映画桜田門外ノ変の感想を書きます。

私の映画の評価方法、というか評価結果表示方法は、

①その映画の分野での評価(5点満点)
②一般的な意味における「映画」での評価(5点満点)
③結局、見るべきか【絶対に見るべき、見るべき、どっちでもいい、見るべきではない、絶対に見るべきではない】

でやろうと今のところ思っています。

あとは、それなりの感想を書きます。素人の感想ですが、よければ話半分で読んでみてください。特に②については、私は映画論について勉強しているわけでもないので、簡単なことしか書けません、悪しからず。
また、ネタバレ有りのときは、直前で宣言します。
映画というのは個人の趣向によって意見がばらけるものなので、御自身が嫌だなと思ったらそっと閉じてください。

映画「桜田門外ノ変」 (原作:吉村昭「桜田門外ノ変」)

① 4.9点
② 5点
③ 【絶対に見るべき】

いきなりの高得点です。というのも、私はあまり時代劇をたくさん見ているわけではありませんが、私が見た時代劇の中で最高の作品だからです。あと、まだ原作は読めていません。買ってはいるのですが。

題材はもちろん、桜田門外の変です。これは、1860年3月24日に起きた、水戸脱藩浪士たちが当時の江戸幕府大老井伊直弼を斬殺したという、一大事件です。大政奉還のだいたい七年前です。
当時は欧米列強が貿易販路拡大を求めて、アジアの後進国に、開港を次々に迫っていた時期でした。
大老に就任した井伊直弼は、天皇の勅許を得ず、日米修好通商条約などに調印してしまいます。
また、これに反対する尊皇派の人間を断罪する安政の大獄を挙行し、吉田松陰や橋本左内などの急進的(と言われる)尊皇攘夷派の人間は処刑されてしまいました。
そういった事態にに憤慨した尊皇派が大いに反発し、遂に水戸藩における急進的尊皇派たちは、大老井伊直弼を暗殺するしかないという結論に至ります。
そして3月24日早朝、季節はずれの雪景色のなか、江戸城へと登城する井伊直弼を含めた大名行列が彦根藩邸から出発します。しかし、桜田門手前には水戸浪士たちが変装して待ち構えており…。

といった感じの導入部ですが、井伊直弼襲撃までも綿密に情勢が描かれ、その後の顛末もまた描かれています。
①についてですが、まず、原作が吉村昭の作品なので、極めて史実に忠実です。根本からフィクションである時代劇は話が別ですが、こういった実際の出来事を取り扱う場合、私は、史実に忠実であればあるほどすばらしいと思っています(何が史実なのかはまた難しい問題ですが)。また、彦根藩邸門~桜田門にかけてのセットのすばらしさなども輪をかけて、この映画ではまさに歴史そのものを現場で目撃しているような感覚に陥ることができます。襲撃シーンでも、下手に表現を和らげたりしていないところも、大いに評価できるポイントです。歴史とはあまりにも残酷なものなので、表現を和らげることはむしろ、現実から目をそらさせる有害な行為とすら言えるでしょう。
-0.1点については後のネタバレあり感想で要因を書きますが、それほど重大ではありません。

次に②についてですが、まず俳優陣が一流揃いなので、下手な演技はほとんどありません。ただ、有村次左衛門役の方は、少々オーバー気味かなと思いました。笑
また、ストーリー展開が時間軸として少々前後する部分があるのですが、これはこんがらがるほどでもないですし、襲撃へと盛り上げて行くための良い試みだと思います。
というわけで、結局は【絶対見るべき】としましたが、もちろん時代劇好き、というより歴史好きの方にしかそう言えません。歴史が好きでない方は、歴史を描いているという点からして評価が既にマイナスに傾き始めるので。
また、これは微妙かもしれませんが、尊皇攘夷派よりも佐幕派に同情的な人間は、楽しめないかもしれません。というのは、この映画は後進国となってしまった日本の世界おける立ち位置を、いかにして列強に伍していけるようにしていくかということを考え、欧米の言いなりにはならないように立ち振る舞っていくべきであることを強く主張していた尊皇攘夷派が、体制保護第一の守旧的幕府勢力によって圧殺されていくことの悲劇を描き出しているのであって、別に幕府側の井伊直弼の悲劇を描いているわけではないからです。

以上となります。

ちょっとしたネタバレ有りの感想
-0.1点についてですが、その要因は途中の鳥取藩剣術指南役との決闘シーンです。これは、原作にも無いみたいで、正直必要なかったと思います。おそらく、主人公にも何か殺陣シーンがあったほうがいいという通俗的意見によると思われます。関鉄之介はそんなことをしなくても十分に活躍していましたので、これはどうなのかなと思いました。瑣末なことですが、安易な展開に思えたのでマイナス点としました。だいたい、一大藩の剣術指南役相手に健闘できるなんて、そうそうありえないはずです。

さて、ただの感想となりますが、日本の将来を考えていただけの関鉄之介が結局は死罪に処せられるのは、悲劇としか言いようがありません。
捕まった直後の台詞は本当に身にしみます。
最後の斬首直前の目隠しされる場面において、妻や子供の笑顔を眼前に浮かべるのは、あまりにも悲しい場面です。
いや、本当につらい、あまりに悲劇的な時代でした。いったい何人の人間が犠牲になったのか。
ただ桜田門外ノ変によって、幕府の権威が大きく失墜し、明治維新完遂へと加速していけたことが一応の救いです。